2009年1月アーカイブ
米国にオバマ民主党政権が誕生した。米史上初の黒人大統領の就任式直前、ガザに侵攻してイスラム原理主義勢力ハマスを叩きに叩いていたイスラエルが一方的停戦、これを受ける形で、ハマスも軍事行動をやめた。米国民が自国の新たな国家元首にお祭り騒ぎを繰り広げるのは当然だが、日本のメディアがご祝儀のような報道を展開するのは毎度のことながら辟易する。
米議会は1月8日の上下両院合同会議で、2008年11月の大統領選を受けて、12月に行われた計538人の選挙人による投票の公式集計を行った。その結果、民主党のオバマ大統領候補、バイデン副大統領候補が365票を獲得、173票だった共和党のマケイン、ペイリン正副大統領候補を破ったことを公式に確定。
この20日に第44代大統領に就任したオバマ氏は結局、ニューヨーク州、カリフォルニア州など民主党の地盤に加えて、フロリダ州、ペンシルベニア州、オハイオ州などの激戦州や、共和党が伝統的に強いノースカロライナ州でも勝利してホワイトハウス入りしたわけだ。
が、このお祭り騒ぎをよそに、米国は大恐慌以来最長のリセッション(景気後退)に向かっている。経済の約7割を占める消費、そして景気悪化の元凶である住宅市場が上向く兆しは乏しく、エコノミストの間ではマイナス成長が09年第2・四半期まで続くとの見方が支配的だ。失速を続ける米経済の着地点はまだ見えない。
他方、「史上最悪」の評価を残して去っていったブッシュ前大統領は本当に最悪だったのか。これまで最悪とされていたのはウォーターゲート事件で辞任したニクソン元大統領。だが、ニクソン共和党政権が、南ベトナムで示したがんばりがあったからこそ、北ベトナムの脅威と共産主義の伸張を彼の地で食い止め、東南アジア全域が共産化されるのを防いだのではないか?
非難されるべきは、ニクソン共和党政権率いる米国との間で結んだベトナム和平ジュネーブ協定をほごにし、軍を南ベトナムに進め、「民族独立」の美名の下にサイゴンを制圧した北ベトナムの共産政権である。彼の地で戦死した米軍将兵は、決して犬死にしたわけではなく、東南アジアの現在の繁栄の礎となった。そして世界史的には、ソ連邦を崩壊させ、米ソ冷戦を終わらせる先兵となったのだ。
ブッシュ政権の場合も、本当の意味では今評価を下せる段階にはない。真珠湾以来の米本土攻撃となった01年の同時多発テロを受けてブッシュ政権が発動し、今も続いているアフガン、イラクでの戦いがもしなかったとしたら、国際テロ組織アルカイダに象徴されるイスラム原理主義との闘いはどうなっていたのか?
オバマ大統領に対するご祝儀報道とは別に、冷静な分析が必要とされる。
オバマ政権2009年はイスラエル軍のハマス攻撃で幕を開けた。イスラエル軍は08年12月27日、パレスチナ自治区でイスラム原理主義組織ハマスが実効支配するガザ地区を、ハマス側からロケット弾攻撃を受けたという理由で大規模空爆、3日夜(日本時間4日未明)には地上部隊を投入して全面的な侵攻に踏み切った。国連安保理は8日夜、公式協議を開き、ガザ地区での「即時かつ恒久的な停戦」を求める決議案を賛成14、棄権1で採択した。決議は全会一致での採択が見込まれたが、米国が棄権。
メディアには、生々しい侵攻の画像や、逃げ惑うパレスチナ住民の痛々しい姿が連日映し出されるが、戦闘がやむ気配はない。なぜなら、イスラエルはもちろんのことハマスにとっても、周辺のアラブ諸国にとっても、この戦闘が理にかなっているからこそ続くのだから。パレスチナ解放機構(PLO)をベイルートから追い出した1982年のレバノン戦争、その後のレバノン南部を舞台としたイスラエル軍とシーア派の大規模軍事衝突もそうだった。
今回のガザ侵攻は、かつて首相としてパレスチナとの和平にのめり込み、政権を棒に振ったイスラエルのバラク国防相が総指揮を執っている。総選挙をこの2月10日に控えたイスラエルでは、「譲歩」はクネセト(国会)における議席喪失を意味する。同じバラクでも「進歩・革新」の象徴であるオバマ次期米大統領と違って、バラク国防相には強硬手段継続しか生き残る道はない。そして軍が強硬であれば強硬であるほど国民が拍手喝采しているのがイスラエルの実情だ。
「作戦の目的は停戦そのものではない。ハマスのテロの根絶だという観点を忘れてはならない」という英字紙「エルサレム・ポスト」の7日付社説が、この間のイスラエル国民の気持ちを代弁している。
ハマスはどうか。徹底抗戦すればするほど、逃げ惑うパレスチナ住民の姿が国際社会に焼き付き、国際世論の同情がハマス側に傾いていく。勝つ必要はない。負けなければいいだけである。かつて故アラファトPLO議長が得意とした常套手段である。さらに、ヨルダン川西岸を支配するアッバス議長率いるパレスチナ自治政府の幹部たちを、追い詰めるという副産物もある。事実、攻撃にさらされるパレスチナ住民を前に、何ら有効な手段を取れないのがアッバス議長らだ。
周辺アラブ諸国はどうか。ハマス側は、国際テロ組織アルカイダとのつながりは全くなく軍事作戦はイスラエルに対してのみであると主張してきたが、自国内の過激派に手を焼くエジプト、サウジ、ヨルダンなど周辺アラブ諸国にとっては、アッバス議長のパレスチナ自治政府との「和解」をのらりくらりと引き延ばしているハマスは、アルカイダと「同じ穴のむじな」だ。表面上は、人道主義を掲げてイスラエル側を非難しているが、心の底ではハマスなど消えてなくなればいいという気持ちがみえみえだ。
安保理の停戦決議に棄権した米国は、いまだブッシュ大統領の共和党政権だ。オバマ次期大統領就任までには、なお日にちがある。それぞれの思惑で戦闘は現時点ではやまない。オバマ大統領が正式就任して以降、ハマス、イスラエルとも米国に「恩義」を売るという形で停戦に応じて行くだろう。そして、再び実利を得ることが可能と感じた段階で、戦闘は再発していくのである。
人道主義、人権、同情心でパレスチナの戦いを食い止めることはできない。どちらかがどちらかを叩きつぶすまで続く。
イスラエル軍ガザ侵攻
