2009年5月アーカイブ

 オバマ政権誕生で、ブッシュ前大統領を支えた米国の政権内にいた共和党系保守派は、極左から極右に転向したネオコン(新保守派)を含め、いずれも野に下った。その中で、反オバマの論客として気をはいているのが父親ブッシュ、息子ブッシュと2代にわたってこれを支えたリチャード・ブルース・チェイニー氏だ。1941年1月生まれの68歳。国防長官として湾岸危機・戦争を克服し、副大統領としてイラク戦争に臨む。ごりごりの保守派だ。

 そのチェイニー前副大統領、副大統領時代は一貫して黒子に徹し、決して表に出ることはなかったが、野に下って以降は、メディアに積極的に登場、反オバマの論陣を張り始めた。10日には米CBSテレビの番組に登場し、過酷な尋問方法を使ったとしても、それによって国際テロ組織アルカイダのテロ容疑者から引き出した情報は、「おそらく数十万人の米国民の命う上で役立った」と豪語。水責めに象徴される「拷問系尋問法」を正当化した。

 チェイニー前副大統領は、「後悔はしていない。まったく正しいことだったと思っている。容疑者の抵抗を打ち破るために必要不可欠のものだった」と強調。その上で、同前副大統領は、「アルカイダが米国の都市に核攻撃を計画していた」との主張を繰り返すとともに、「数千人、数十万人の米国民の命を救ったと全面的に確信している」と断言。同前副大統領はこの後、21日もワシントンでの講演で、同趣旨の反オバマの論を張った。

 このチェイニー・ワシントン講演の直前、オバマ大統領は目と鼻の先のワシントンにある国立公文書館で演説し、グアンタナモ米海軍基地(キューバ)のテロ容疑者収容所閉鎖を公約通り実行することを強調、閉鎖を巡っては、共和党だけでなく民主党内にもも収容者が米本土に移送されることへの懸念を強めている現況に触れた上で、同大統領は、収容所が「自由と正義」に基づく米国の憲法と法の支配を著しく傷つけたと指摘した。

 グアンタナモ米軍基地に関しては、前回のニュースで詳しく触れたので再掲はしない。グアンタナモの収容所に収容されているテロ容疑者は現在240人。オバマ大統領は演説で、容疑内容によって1)連邦裁判所での審理2)軍事法廷での裁判3)裁判所の決定による釈放4)本国や第三国への送還―などのケースがあると指摘。いずれの場合でも「容疑者を厳重に警備された施設に移し、米国の国家安全保障にとって危険な人物は決して釈放しない」とチェイニー系の反論に「再反論」。

 静かな隠退生活を送っているブッシュ前大統領に対し、昔も今も最も嫌われている政治スタイルを持っているのが、チェイニー前副大統領だ。が、ブッシュ前政権で次席補佐官を務めたカール・ローブ氏を懐刀の1人として抱える同前副大統領の反オバマ論に関し、民主党系の論者が反感を抱くのは当然だが、共和党内でも思いは複雑だ。。「チェイニーが共和党の顔として動くことは、災い以外の何物でもない。彼はただの銃を持った不機嫌な老人だ」という声すらある。

 米CNNの21日の世論調査では、チェイニー前副大統領に「賛同する」人は37%に過ぎないが、今年1月から8はポイント上昇している。いずれにせよ、チェイニー副大統領が例え「不機嫌な老人」だったとしても、この「不機嫌」がどこからきているのか、単なる痴呆の前触れか、それとも彼を「不機嫌」と断定する周囲の方がおかしいのか、精査すべきだろう。

 グアンタナモ米軍基地。1898年の米西戦争で米軍がスペインから奪取した現キューバ東南部グアンタナモ湾にある米海軍の基地だ。面積116平方キロ。米国の援助でスペインから独立したキューバは1903年、グアンタナモ基地の永久租借を米国に認可。主権はキューバにあるが、米国が永久的に利用(革命キューバはこれを非合法としている)。キューバ国内でも米国内でもなく軍事法廷のみが許される特殊区域だ。

 2001年のアフガン報復空爆以降、タリバンや国際テロ組織アルカイダのテロリスト容疑者が収監されたことで世界的に一躍有名となり、米国の進める「テロとの戦い」の暗い部分を象徴する施設となっている。収監されている連中が一体「捕虜」なのか、それとも「犯罪者」なのか不明なためで、米国のブッシュ前政権、オバマ現政権とも時と場合によって両者を使い分けているのが実情。

 が、ともかくもオバマ大統領が、大統領選時代から、グアンタナモ基地や米軍の管理下に当時あったイラクのアブグレイブ刑務所で、米当局がイラク人テロ容疑者を裸にしたり、首に革ひもを巻きつけたりしたいわゆる「虐待写真」なるものが流出したことから、これを「容認できない」として徹底調査を公約に掲げてきたことは周知の事実。ところが人間社会では、厳しい現実を前に建前と本音の乖離が顕在化するのが実際のところで、オバマ大統領とて例外ではない。

 オバマ大統領はまず13日、ブッシュ前政権時代にグアンタナモ基地をはじめとするイラクやアフガンのテロ容疑者収容施設で行われた米兵による収容者虐待を調査した写真の公表を取りやめを決定。同大統領は記者団に対し、決定理由について「反米感情を刺激し、米兵士を危険にさらすことになる」と説明した。

 さらにオバマ大統領は15日になって、120日間の審理停止を命じていたグアンタナモ基地の特別軍事法廷でのテロ拘束者の審理を再開すると発表した。オバマ大統領は声明で、特別軍事法廷を「米国を守るためには最善の方法だ」と支持。再開に当たり、①非人道的尋問で得られた証拠の不採用②伝聞証拠の制限③証言拒否の保護―などの改善策を導入する考えを示した。

 案の定、人権団体からは「オバマ大統領は公約違反」の大合唱だ。加えて15日、中央情報局(CIA)とペロシ下院議長(民主党)との間で、「拷問」を象徴するいわゆる「水責め」に関し、その現況を「(ペロシ議長に)報告した」、いや「報告を受けていない」と互いに相手をけなし合う内紛が発覚。ペロシ議長は、拷問問題でブッシュ前政権批判の急先鋒だっただけに、初めから拷問の実態を知りながら黙認し、放置していたのではないかというわけだ。

 軍を掌握するオバマ大統領が、「テロとの戦い」という現実を前に、国益最優先の「右旋回」を繰り返すことは今後とも続くだろう。ブッシュ批判をしているだけでよかった時代は既に戻ってこない。うまく舵取りをしないと、民主党内部のリベラル派、人権団体などの左派陣営は、雪崩を打って反オバマに傾いていく可能性がある。かといって左派におもねれば、保守派が黙ってはいない。さてどうするか。

 米国の「テロとの戦い」の最前線でありながらこのところメディアへの露出が減ってしまったアフガン。このアフガンで8月20日、自由選挙による2回目の大統領選が実施される。6日に米国を訪問したアフガンのカルザイ大統領は既に4日に、大統領選の候補者名簿に登録。

 8日に締め切られた立候補届け出によると、これまでに、再選を目指す現職のカルザイ大統領をはじめ、女性2人を含む44人が届け出を行った。選挙管理委員会の審査を経て、6月12日に正式な候補者名簿が発表される。現時点では、カルザイ大統領に対する有力な対抗馬は見当たらず、同大統領の再選は確実。

 で、イラクからの「名誉ある撤退」を模索する一方で、米軍兵力のアフガンシフトを公言しているオバマ米大統領。オバマ大統領は6日、ホワイトハウスで、米国入りしたカルザイ大統領およびカルダリ・パキスタン大統領と個別会談。さらには米・アフガン・パキスタンの3カ国大統領会談も行い、「テロとの戦い」完遂への意気込みを内外に誇示。

 オバマ大統領は3カ国大統領会談の後、「国際テロ組織アルカイダとその協力者を分裂させ、解体し、打倒するという共通の目標を持って3カ国は集まった」と強調。その上で「共通の敵」を打ち破るため、情報共有など3カ国の連携強化の必要性を訴えた。また、アフガン政府が「共通の敵」と戦うのを支援する際、「市民の犠牲を防ぐ努力をする」とも述べた。度重なる米軍誤爆報道に対する苦しい弁明だ。

 いずれにせよ、今夏のアフガン大統領選に向けて、アフガンに兵員を送っている米国、北大西洋条約機構(NATO)の派兵国は大変だ。仏ストラスブールで開かれていたNATO首脳会議は4月4日、軍事、民生支援の両方を支援するオバマ大統領の包括戦略を承認。これを受け、増派をしぶっていた欧州各国は、一転、今夏のアフガン大統領選に向け、約3000人の要員派遣を決めた。しかし、あくまで選挙までの短期的な派遣で、恒常的兵員不足に悩まされているNATOのアフガン展開の前途は不透明。

 報道などによると、英国は選挙監視までの治安維持のための兵員として900人を派遣。またドイツ、スペインが各600人、イタリアも約250人を派遣する。このほか各国は計約1400~2000人のアフガン軍隊・警察の訓練要員も派遣する。

 他方、アフガンと国境を接するパキスタンでは、国境地帯周辺のアフガン反政府武装勢力タリバンなどの掃討作戦を強化。パキスタン軍は8日、北西辺境州のスワト地区でタリバンなどイスラム武装勢力の一掃に向けた大規模な軍事作戦を行い、過去24時間に武装勢力側143人を殺害したと発表した。同地区ではこの2月に州政府と武装勢力との間で和平協定が結ばれたが、ギラニ・パキスタン首相は7日の国民向け演説で、武装勢力側が協定違反を繰り返したとして、協定を事実上破棄、攻撃を開始したことを明らかにしていた。

 パキスタンや米政府内では、協定締結後にむしろ武装勢力が北西部で支配圏を拡大し、首都イスラマバードに迫る勢いを見せていることに危機感が強まっていた。軍事作戦はこうした状況を背景にしており、アフガン大統領選を前に戦闘の激化が予想される。

 

 オバマ米大統領は4月21日、ヨルダンのアブドラ国王とホワイトハウスで会談、中東和平交渉の停滞を打破するため、米国が「深い関与」を進める方針を表明した。同大統領は会談で、イスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長、エジプトのムバラク大統領を近く個別に招き、イスラエルとパレスチナの2国家共存案の実現に向け説得を図る方針を明らかにした。が、肝心要の当事者にその気は全くない。

 まず、イスラエル国会(クネセト)が3月31日深夜(日本時間4月1日早朝)承認した右派リクードのネタニヤフ党首率いる新内閣。これまでの2国家共存によるパレスチナ和平実現策を「機能していない」と切り捨て。ネタニヤフ氏は約10年ぶり2回目の首相就任。外相には極右「わが家イスラエル」のリーベルマン党首、国防相には労働党のバラク党首が就任した。

 国会の信任投票では、全120人のうち69人が新たな連立政権の承認に賛成した。労働党の一部議員は政権参加に反対し、欠席したとみられる。

 ネタニヤフ氏は国会承認に先立ち演説し、「過激な政権が核武装しようとしている」とイランの脅威を強調。が、パレスチナ和平については、米国など国際社会が唱えるパレスチナ国家樹立にはついに言及せず。

 オバマ大統領が中東和平実現の切り札として送り込んだミッチェル米中東特使は4月17日、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸ラマラでアッバス議長と会談した。現地からの報道によるとアッバス氏は、米国が右派主導のネタニヤフ新政権に対し、パレスチナ国家樹立による「2国共存」案を受け入れ、占領地でのユダヤ人入植地拡大を凍結するよう圧力をかけるべきだと訴えた。

 これに先立ち、ミッチェル氏は4月16日にネタニヤフ首相と会談、同首相はパレスチナ自治政府との和平交渉再開の条件として、パレスチナ側が拒否してきた「ユダヤ人国家」としてのイスラエルの承認を求めた模様だ。

 いずれにせよ、イスラエル側が、核開発を進めるイランを最大の域内不安要因と規定し、イスラエル建国後半世紀以上にわたって中東政治の眼目だったパレスチナ問題は、少なくともネタニヤフ政権下では脇に押しやられた形。

 オバマ政権がいかなる説得に動こうと、ネタニヤフ政権が「オスロ合意」以降の2国家共存を強く推進するとは全く思われない。パレスチナ和平は今、大きな停滞期に突入したといえる。

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