マリキ・イラク首相の暑い夏―軋む対米、サウジ関係

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 イラクのマリキ首相は8日夜、イランを訪問し、アハマディネジャド大統領と会談した。この中で同大統領は、イラクの安定化が中東地域の平穏の前提条件となると述べ、イラクの治安回復に協力する姿勢を改めて強調。同大統領は「イランとイラクは地域の平和と治安確立に重い責任を負っている」と指摘、治安回復などへのイラク政府の努力に「腐敗した人々が抵抗している」と批判した。これに対しマリキ首相はイラクに対するイランの積極的かつ建設的な姿勢を評価。

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 これを快く思っていないのがブッシュ米政権。ブッシュ大統領は9日、ホワイトハウスで記者会見し、イラク安定化に向けてイランが建設的な役割を果たさないのであれば、同国は「その代価を支払わなければならなくなる」と断言、イラクへ高性能仕掛け爆弾を持ち込んでいるとしてイランに重ねて強い警告を発した。ブッシュ大統領はこの中で、アハマディネジャド大統領がイスラエルとの共存を否定し続けていると指摘。さらに、レバノンのシーア派武装組織ヒズボラを育成したのもイランだと述べ、同国の姿勢が変わらない限り、米国はイラン孤立化策を進めざるを得ないと強調。

 ブッシュ政権は、シーア派マリキ政権を現時点では支持している。だが、ブッシュ大統領は所詮「既に先が見えた大統領」であり任期は今期限り。マリキ首相にとっても、いつまでもブッシュ大統領に身を委ねているわけにはいかないのだ。ブッシュ大統領にとっても、状況は同じ。国際テロの根絶をスローガンに、アラブ諸国の協力、とりわけサウジのそれは必要不可欠だが、シーア派マリキ政権に懐疑的なサウジを懐柔する上で、「マリキ政権を抱えたままで果たしてそれが可能か」というわけだ。

 それでなくても、マリキ政権は、8月に入って閣僚の辞任やボイコットが相次ぎ、閣僚37人中17人が不在。米国の反対を押し切って、イラク国会は9月初旬までの夏休みに突入。9月15日のイラク駐留米軍司令官らによる米議会への情勢報告期限までに、ブッシュ政権が強く求める石油法案などの「宿題」を仕上げるのは、ほぼ絶望的な情勢だ。

 米国務省が7月30日発表した援助計画によると、ブッシュ政権は今後10年間にサウジやクウェートなど湾岸アラブ諸国に200億ドル、エジプトに130億ドルの武器を売却をする。中心となるサウジには、新型戦闘機や衛星誘導爆弾、新型艦艇などを供給する。その狙いは、イランの勢力拡大という共通の脅威に対抗し、イラク安定化やパレスチナ和平に協力を求めることだ。ブッシュ政権は同時にイスラエルに対しても軍事援助を今後10年間に300億ドルと大幅に増額する。アラブとイスラエルの軍事バランスを維持するためである。

 ブッシュ大統領はこの計画推進のため7月31日、ライス国務長官とゲーツ国防長官の2人をサウジに派遣。援助計画の焦点がサウジ政府の協力取り付けであることを内外に誇示。サウジは、ブッシュ政権がイラクで一方的に武力行使したことに反発、今年3月にはアブドラ国王が米軍のイラク駐留を「違法占領」と非難。このぎくしゃくした米・サウジ関係を何とかしたいという意気込みの表れであろう。

 サウジがブッシュ政権と距離を置いている背景には、マリキ政権に対する強い不信がある。今年2月、米のカリルザド駐イラク大使(現国連大使)がリヤドを訪問した際には、サウジ側は「マリキ首相はイランの代理人だ」と主張。それを示す秘密文書を見せたという。これに対し、米側は「文書はにせもの」と反論したが、サウジアラビア側は納得しなかったとされる。マリキ首相がイラクで多数派のシーア派を基盤にし、シーア派大国イランがそれを支援しているのは疑いようのない事実。これに対し、サウジは少数派のスンニ派住民が迫害されると危機感を隠さない。

 サウジのサウド外相は1日、ライス、ゲーツ両長官と会談したあと記者会見し、バグダッドに大使館を開設するため調査団を送るなど、イラクとの関係改善を約束。だが、これですんなりと米・サウジ関係、サウジ・イラク関係が推移するとは到底言い難い。ニューヨーク・タイムズによれば、外国人武装勢力の40%がサウジ人のほか、自爆テロ犯人のほとんどもサウジ出身。また、毎月60-80人の外国人武装勢力が国境を越えてイラクに侵入するが、その半分はサウジ国境から侵入するという。

 ライス、ゲーツ両長官のサウジ訪問では、米提案のパレスチナ和平会議にサウジの出席を取り付けるという目的もあった。同会議は、ブッシュ大統領が今秋の開催を目指して提案したもので、サウジが出席すれば、同国がイスラエルと同席する最初の会議となる。両長官の出席要請に対し、サウド外相は「会議が実質的な内容を討議するなら出席する」と条件付きの参加を表明した。

 実質的な内容とは、会議がパレスチナ難民問題やエルサレムの地位の問題、パレスチナ国家の国境問題、西岸のイスラエル入植地の撤去問題の4つを討議することを意味している。

 ブッシュ政権の武器売却計画は今秋議会に提出されるが、承認には、サウジがこのパレスチナ和平会議への出席やイラクの安定、イラン封じ込めなどに積極的に協力することが条件になる。しかし、サウジは国境で武装勢力を阻止することには消極的で、米議会内に不満が高まる可能性もある。イランに対する姿勢でも、米がシーア派のマリキ政権を支えながら、イラン封じ込めを目論むのに対し、サウジはイランとマリキ政権を一体と見て対決姿勢を見せるなど基本的に違う。

 マリキ政権がイランとの関係を強化する動きを見せれば見せるほど、スンニ派が多数を占める周辺アラブ諸国は、「マリキの率いるイラクはイランと同じ穴のむじな」とみなすだろう。米国の主導するイラクの治安回復が全く進んでいない根本原因がここにある。

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